過去、戦争映画で圧倒されたのは、スティーブン・スピルバーグの『プライベート・ライアン』だった。あの映画こそ、戦争映画に革命を与えた映画だと思う。その後、戦争映画はどんどんリアル路線に・・・・・・。
では、本作『ダンケルク』はどうか・・・『プライベート・ライアン』のように視覚・音響によるリアル体験というよりも、人間の心、内面に入り込む恐ろしさを感じた。
クリストファー・ノーランの映画は、ほぼ観ているが、本作も思わず「さすが!」と、唸ってしまった。しかし、何がスゴイか? それは、決して戦争映画としてではない。
本作はある意味サスペンス映画、ミステリー映画の手法といえよう。
1本の映画の中で、時間軸のズレた3つの物語が、最終地点で一つになるという離れ業をやり遂げてしまうのだ。
一週間、一日、一時間・・・この3つの時間軸を交互に織り交ぜ、壮大な一つの物語にするという、とんでもない荒業をみ見事成し遂げている。

そして、心地の悪い音楽が全編に流れ、観ているこちらも厭な気分になる。
さらに、あまりのセリフの少なさに緊張感が高まる。確かに、実際に戦場の中で逃げ惑っていれば、話している余裕なんてないだろう。
そして、戦争映画なのに、敵の姿が映されない。これもまた観ている者に恐怖を与える。まさに見えない相手と戦い、見えない相手から逃げるのだ。
そして、逃げることが卑怯という風潮の中で、最後に「生き残って帰ってきただけでいい」という、男性のセリフに救われる。
戦争は、生き残ることが勝利なのだ。
とりあえず、戦争映画という括りだけではなく、脚本の見事さに圧巻された。